キムチの裏側|人と時間が育てる韓国の味

手から手へと受け継がれてきた食文化

手のひらから受け継がれるキムチ
ⓒKorea Tourism Organization -Alexbundo
 韓国の食卓に、キムチがない日はほとんどありません。

 食事のはじまりに、静かに置かれるあの「赤い一品」。ですが、その味は家ごとに少しずつ違います。

 辛さの中に秘められた旨味や酸味、
 地域や家庭で受け継がれてきた味…。
 言葉では同じ「キムチ」でも、そこにはそれぞれ異なる時間が積み重なっています。

「うちのキムチが一番」
 そんな言葉を、冗談まじりに耳にします。
 母から娘へ。祖母から孫へ…。
 その家の「手のひら」が、自慢の味を受け継いできたのです。

オンマたちが作ってきた味と「キムジャン」

 韓国では「キムジャン」と呼ばれる行事があり、厳しい冬の目前、家族や隣近所で集まって、大量の白菜を漬け、その労とキムチを分かち合ってきました。

 元々のキムチの原型は、冬を越すために、野菜を塩漬けにした保存食。
 そこに唐辛子や魚醤が加わり、今のような赤く深い味わいへと変わっていったのです。

 その味を守り、育ててきたのは、台所に立つ「オンマ」たちです。
白菜の塩漬けから韓国のお母さんオンマ

 白菜を洗い、塩をふり、薬味を混ぜたヤンニョムを一枚一枚に塗り込む…。
 その味付けは、目分量。
 オンマたちがにぎやかに言葉を交わしながら、目指す味を作り上げていきます。

 唐辛子やにんにくの量。塩加減。塩辛や魚醤、野菜、果物、もち米粉まで…
 レシピがあったとしても、最後に頼るのは、"手の感覚"。
 白菜にヤンニョムを塗り込む加減。味見をして整える、ほんの少しの差。
 だからこそ、同じキムチはひとつとしてありません。
オモニ直伝のヤンニョムキムジャンで漬けたキムチ

「発酵」という、目に見えない力

仕込んだばかりのキムチ
 手で漬けられたキムチには、植物由来の乳酸菌が自然に息づき、体にもやさしい食べものとして知られています。

 特別な菌を加えて作るわけではありません。
 もともと野菜の表面に付着している乳酸菌が、塩によって守られながら、ゆっくりと増えていくのです。

 仕込んだあと、静かに起きている変化…。
 人の目には見えませんが、そこでは小さな働きが続いています。
発酵が進むにつれて味が変わるのも、そうした乳酸菌の働きによるものです。

本来は「体にいいから食べる」というよりも、暮らしの中で自然と作られてきたもの。

自然と時間に任せること。
それもまた、キムチの裏側のひとつです。

時間が味を変えていく

 キムチは、出来上がった瞬間が完成ではありません。発酵が進み、味も変化します。

古漬けキムチのチゲとチム
古漬けキムチのチゲとキムチチム
 浅い味わいの頃は、そのまま。
 少し酸味が出てきたら、炒め物へ。
 さらに熟せば、チゲへ。

 よく熟れたキムチと豚肉を合わせたときの、あの深い旨味…。
 時間が経つことで、役割が変わる。ひとつの食材が、暮らしの中で姿を変え続ける。

 キムチは「作って終わり」の食べものではありません。
 時間の中で育ち、時間によって使い道さえ変えていく食べものです。

キムチの裏側にある人と時間

 急いで漬けた味。ゆっくり待った味。何年も続く、変わらない味…。
 キムチの味には、その家の時間がにじみます。
キムチ昔も今も
 そこには保存の知恵があり、人とのつながりがあり、目に見えない発酵が息づき、そして積み重なってきた時間があります。

 キムチは、ただの副菜ではありません。
 人と時間が育ててきた韓国の味。
 そんな裏側を知ると、本場で味わう一口も、これまでと違ってくるのではないでしょうか。

にこまるツアーの視点

 韓国の食卓に何気なく並ぶキムチにも
その裏側には、歴史や文化、知恵、そして人と時間が重なっています。
それはキムチだけでなく韓国料理のあちこちに息づいているものでしょう。

 にこまるツアーでは、こうした人に出会い、時を感じる旅を大切にしていきたいと思っています。